え~~ず
古文に出てくる「え~~ず」で「~~できない」という不可能を表すやつ。
よく西日本方言の「よう~~ん」と同じであるといわれる。
確かに形や意味は同じなのだが待って欲しい。広辞苑を見ても、大辞林を見ても、大辞泉を見ても、古文の「え」は「得」の連用形から派生した副詞だというではないか(ちなみに後続するのが肯定なら可能を表すそうだ)。
一方で副詞「よう」は「良く」または「善く」のウ音便であると書いてある。
はて。少なくとも、一見するとこれらの語は異なる語に見える。長い歴史の中で、いったいなにがどうなって「得」が「良く」になったというのだろうか。
また、ことばの変化は近畿地方から各地へ向かって時間差で広がっていったという説がある。そうすると、東京方面に「え」がないのだから、「え~~ず」は一度途絶えたのちに「よう~~ん」として復活を果たしたことになってしまう。それはそれで両者が異なる語であることは説明できるが、ではなぜこの文法構造がわざわざ別の語を伴って復活したのか、という謎が出る。
両者を結びつけてくれるかもしれない手がかりは2つ。
ひとつは、「え」の見出しは「え【得・能▽】」、「よく」の見出しは【良く・能▽く・善く】のように、いずれの語も「能」という用字が稀ながらあるということだ。
ただ、それは単に「能」が「能う」のように可能の意味を持っているので、あとから当てられた字のようにも思える。
もうひとつは、広辞苑の「え」の見出しでは、解説の①に入る前の箇所(凡例にはこの、品詞と解説の間の箇所の定義がされていない)に
〘副〙(動詞「得(う)」の連用形から)よく。あえて。
(第7版)
〘副〙(動詞「得(う)」の連用形から)よく。よう。あえて。
(第4版)
と書かれていること。解説の①が肯定の場合を、②が否定の場合をそれぞれ扱っているので、両方に共通の解説が冒頭に出されているだけかもしれない。
だが、これを解説の一部として読むなら、「え」は「よく」だけでなく「あえて」とも近しい意味であるということになってしまう。この記載のない他の辞書はもちろん、広辞苑でも「あえて」の見出しに可能のニュアンスを持った解説はない。はて、これはいったいどういうことだろう……。
また、第4版には「よう」があるというのは、「よう」に関して現在と過去の間に何らかの隔たりがあることを示唆している。
手元に古語辞典でもあればもう少し何かつかめたのかも知れないのだが。……ん?古語辞典?
あるじゃん、Webでさっと引ける古語辞典。Weblio古語辞典が学研全訳古語辞典を収録・提供してるじゃん。
というわけでさっそく副詞の「え」を見てみると、どうやら単に可能不可能というだけでなく「とてもできない」「よくできる」という強調の意が含まれているらしい。確かに「よう~~ん」といえば強い否定のニュアンスを感じる。
また、広辞苑で謎だった「あえて」との類義というところも、「あへて」を見ると同様に強調の意味があるようだ。
この強調のニュアンスが「よく」という形を通じて残ったものが、現代語の「よう」なのだろうか。あるいは「よう」が先にあり、一部の地域を除いて廃れてしまったのだろうか。誰か専門家の人がいたら教えて欲しい。